「とりあえず3年」はどの立場の言葉なのか費用の面から考えてみる

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とりあえず3年

とどでございます。

とりあえず3年」なんて言葉がよく聞かれますが、これって誰の立場からの言葉なんでしょうかね。少なくとも労働者側の言葉ではないように思います。

ここでは義理とか人情とか、そんな人間味あふれる観点ではなく、お金の観点からドライに「とりあえず3年」を検証してみたいと思います。

ここでは、社員1人を雇うのに掛かったコストをいつ回収できるのか、計算することにします。なお、コストについては『社員1人を雇うためのコストはいくらなのか計算・検証してみた』で計算したものを使うので、こちらに目を通していただけるとより楽しめるかと思います。

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目次

  1. 社員を雇う理由をおさらい
  2. サンクコストを防ぐための「とりあえず3年」
  3. 投資回収期間を考えたい
  4. 社員を雇う際のコスト
  5. 初期費用はいくらか
  6. ランニングコストはこれくらい
  7. いよいよ「益」の話
  8. 利益の計算
  9. 投資回収ができる月を探す
  10. もう少し現実に寄せる
  11. 「とりあえず3年」について言えること
  12. 「とりあえず3年」という言葉に行き会ったら
  13. まとめ

社員を雇う理由をおさらい

会社を経営している中で、社員の転職や退職は避けられないイベントですが、これがまた会社にとって痛手なんです。

例えば新入社員を1人雇用することを考えれば、採用にかかるコスト、教育にかかるコスト、毎月の人件費にボーナスと、結構な出費になります。なぜこれだけの出費をしてでも人を雇うかと言えば、かけたお金以上のリターンを期待しているためです。外に営業活動に行く場合は売り上げを期待していますし、会社内の業務分担をするなら、他の社員への負担を減らすことを期待しています。

こうして見れば、人を雇うのは投資活動の一環とも言えますね。

さて、これだけの投資を行った社員があっさりと辞めてしまった場合、かけたお金はサンクコストになってしまいます。サンクコストは、日本語だと埋没費用。せっかく投資を行ったのに回収できない費用になるのです。会社としては、何としてもこれを避けたいところ。

サンクコストを防ぐための「とりあえず3年」

会社としてはサンクコストを無くしたいので、魔法の言葉を使う訳です。

「とりあえず3年」と。

前の会社にいたときに、偉い人から聞いたのは「新入社員に掛けたコストが回収できるのは、だいたい3年が目安」という言葉。この言葉を聞くと、経営者側からすると3年いてもらわないと困るんだなと理解できます。

この3年は平均値らしいので、もりもり売り上げる優秀な社員なら、もっと早くコストが回収できる訳です。会社としてはありがたい話ですね。

投資回収期間を考えたい

雇用は投資の一環ですから、投資が回収できるまでの期間を考えられるはずです。会社がかけているコストと、社員のもたらす売り上げから、その期間を考えてみましょう。

今回も、前回同様以下のモデルケースを考えます。

  • 中規模なIT企業で新入社員を雇う際のコストを計算する
  • ボーナスは年2回、合計5か月分を支給
  • 手当は住宅手当(月1万円)、通勤手当(月1.5万円)。退職金は定年後に一時金として1000万円程度の想定
  • 今回入社する新入社員は直接部門への配属予定

この条件で、新入社員を雇う際に掛かったコストをいつ回収できるのか考えたいと思います。

社員を雇う際のコスト

考えなければならないコストは、前回と同じく以下の通り。

  • 採用にかかる費用
  • 研修・教育にかかる費用
  • 毎月の給与
  • 住宅手当などの福利厚生費
  • 社会保険料の会社負担分
  • 業務に使用する機器のリース代など
  • 退職金の積み立て
  • 間接部門の費用(人件費)

これらのコストについては、『社員1人を雇うためのコストはいくらなのか計算・検証してみた』で、上記のモデルケースについて詳しく計算しているので、時間のある方はそちらも見ていただけると、今回の検証をより楽しめます。

今回の投資回収についても、このデータを使っていきます。

初期費用はいくらか

採用、教育に関する費用は初期費用と言えます。上記のページで初期費用を計算したところ、以下の結果となりました。

初期費用

前回はざっくりと70万円で計算していましたが、今回はExcelを使うので687,249円と細かく見ていくことにします。

ランニングコストはこれくらい

こちらも前回の計算結果を使用します。新入社員の基本給を20万円手当を2.5万円とすると、1年間のコストは以下のように4,595,560円と計算されました。

新入社員を雇う経費

ここから、ボーナス支給のタイミングを考慮したランニングコストを考えます。そのため、ボーナスそのものは月々のランニングコストから除外し、支給のタイミングでその額がコストに加算されることとします。

社会保険料については、支払いのタイミングを考えると複雑になるので、1年間に支払う額である547,337円を月々支払う事にして45,611円として計算します。

結果として、この新入社員に掛かる月々のランニングコストは299,630円となりました。

また、間接部門の社員に掛かるコストも考慮します。前回の結果から、間接部門の比率を10%とし、間接部門の社員1人分のコストを9人の直接部門の社員で分担します。

間接部門の社員の給与は、新入社員の1.5倍程度と設定しています。

間接部門の社員の経費モデル

月々の間接費用負担分は、間接部門の社員に掛かる1年間のコスト(上の表の合計である6,736,110円)を12カ月で割り、さらに直接部門の9人で分担した62,371円とします。本来は間接部門の社員のボーナスもタイミングを合わせた方がいいのですが、今回着目しているのは新入社員についてなので、彼らのボーナスは月々の間接費用負担分に含めてプールしておくことにします。

結論として、新入社員本人のランニングコストと間接費用負担分で299,630円 + 62371円 = 362,001円が月々のコストになります。

いよいよ「益」の話

コストの計算ばかりで頭と胃が痛くなりそうでした。今度は売上と利益の計算です。

こちらは単純明快で、お客様からいただいたお金が売上として計上されます。IT業界的に言えば、委任で受けた案件の人月単価だったり、請負案件を人月で割ったり。小売業や製造業なら仕入れや原料の費用なども考えないといけませんが、今回はIT企業で考えてみます。

計算を簡単にするため、この新入社員の単価を以下のように設定しましょう。

単価推移

60万円からスタートし、1年で5万円ずつ上昇するものとします。請負でも委任でも、この値をベースに見積もりを出していることにします。1年目については、新人研修+OJTの期間を6カ月とし、この期間は売り上げが無いものとしましょう。

利益の計算

売上 – 費用が利益ですから、毎月の売上からコストを引いていきましょう。計算の対象は、今まで登場した売上、費用であり、これを金額に表すと以下の表のようになります。

売上と費用

例えば2年目であれば、650,000円からランニングコストの362,001円を引いた287,999円が利益になります。

投資回収ができる月を探す

上記の情報を元にグラフ化したものがこちら。(クリックで拡大)

投資金額回収モデル

グラフより、今回のケースでは新入社員が入社して2年目の3月、つまり24カ月目でプラスになるので、その時点で投資金額の回収が終わったと言えるでしょう。ここから先の分は会社にとって利益になります。

コストの面で考えると、初期費用はそこまで多くなくとも、研修+OJT期間のランニングコストが重いです。しかもこの会社はボーナスまで払う優良企業なので、それもコストとしてのしかかってきます。グラフ中で回収金額が顕著に減っているところは、ボーナス支給のタイミングです。

このグラフの中で最小値となるのが、1年目9月の-3,359,255円。さ、さんびゃくまんえんも……。研修+OJT期間に売り上げが無いことから、この金額までは凌ぎ切らないといけません。

このモデルにおいて新入社員が3年間辞めずに働いた場合、会社は約300万円の利益を手にできる訳ですから、その利益でまた新入社員を雇うことができる訳です。最大300万円強のコストを賄うためのお金として使える訳ですね。

もう少し現実に寄せる

上記の例では、10割というサーバーもびっくりな驚異の稼働率で働き、かつ昇給しなくても文句を言わないし、休みが無くても生産性が落ちないメシア社員のモデルでした。

実際には、社員の昇給もありますし、稼働率だって9割いけば万々歳じゃないでしょうか。夏休みや有休の取得だってありますし、次の案件に入る前に技術検証や勉強するケースもあると思います。

という訳で以下の条件で計算してみます。

  • 昇給を考慮し、4月に10,000円の昇給とする
  • ボーナスは1年目の冬から支給し、2年目以降は夏、冬両方支給する
  • 稼働率は9割と設定し、上述の単価の9割を売り上げとして計算
  • 間接部門も同様に4月に10,000円の昇給がある

上記の条件をまとめた売上と費用の変化は次の通り。

昇給モデルのコスト

この条件で計算したグラフはこちら。(クリックで拡大)

9割稼働の投資金額回収モデル

売上金額の減少、ランニングコストの増加により、先ほどのモデルより回収にかかる期間が伸びています。この例では3年目の9月、つまり30カ月目でプラスに転じます。

冒頭の、私が偉い人から聞いた「新入社員に掛けたコストが回収できるのは、だいたい3年が目安」という言葉はまさにその通りでした。

「とりあえず3年」について言えること

この言葉は、やはり経営者側の言葉だと感じます。

新入社員が3年以内に辞めてしまった場合、上記のグラフからも投資金額が回収できない可能性が高いと言えます。となると、経営者にとっては、新入社員に最低でも3年いてもらわないと困る訳です。

そこで使われるのが「とりあえず3年」という言葉。これを浸透させておけば、投資金額を回収できる可能性が高くなります。会社も慈善事業でやっている訳ではないので、利益を追求しないといけません。この点は仕方のない部分ですね。

このように経営者側の言葉なんだけど、もう少し突っ込んで考えてみれば、ある意味では労働者のためでもあります。

銀行といった業種的な意味ではなく、経営者の性格という意味でお金の管理がきっちりしている会社に転職する場合、「とりあえず3年」働くことはプラスに働きます。というかマイナスを防ぐ、というのが正しいかも。

お金の管理がきっちりしているということは、雇用という投資のリスクも考えるということ。転職しようとする労働者が、前の会社を3年経たずに辞めている場合、前の会社は投資金額の回収に失敗したのだ、と判断されるかもしれません。

そんなリスクがある商品(=労働者)に、お金の管理がきっちりしている人が手を出したくなるか? と考えれば、手を出さない可能性が高いですよね。

そこで3年働くことで、このリスクを回避できる可能性が高くなります。投資金額の回収が出来ている、という前例があるためですね。

ただ「とりあえず3年」が労働者のためになるのは、ちゃんと3年働ける環境であることが前提です。3年働き切れないほどのブラックなら、こんな言葉に縛られるべきではありません。

「とりあえず3年」という言葉に行き会ったら

あなたが経営者なら、社員を雇う際の投資金額の回収が終わるまで3年かかることを心に留め、3年働いてもらえる良い環境を作って欲しいです。良い環境であれば、自然と3年以上働きます。少なくとも、この言葉を盾に労働者を縛り、本人の意思に反してブラックな働き方をさせるようなことだけは避けてください。

あなたが労働者なら、この言葉に縛られる必要はありません。もちろん、3年働きたくなるような環境であれば、そこで才能を開花させるのが良いと思います。でもあなたが望んでいないのに、心と体をすり減らすブラックな働き方が続くのであれば、まずは身の安全を確保するために会社を辞めて転職するのはあり。というか早く逃げて。

転職活動のハードルが上がるなんて言われても、あなたが既に就活で知った通り、結局は縁と相性が大事です。会社なんて星の数だけあるんだから、その中からあなたにとっていい会社に出会えばいいだけです。

まとめ

お金の面で考えれば、「とりあえず3年」は経営者にとって有利に働く言葉でした。経営者にとっては雇用のコスト回収の目安が3年なので、3年働ける環境づくりと、そもそも3年以上働いてくれそうな人を雇うことを意識してもらえたらよろしいかと思います。

また、労働者の立場で「とりあえず」で3年働くことにあまり意味を感じません。私は事業資金を貯める目的があったので3年以上働いていましたが、この言葉に縛られず、自分と会社との相性を冷静に見極めるのがいいんじゃないかと思います。

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