大河ドラマ「真田丸」44話に学ぶ、型破りの効果と伏線回収の威力

2020年2月6日

上田城

2016年の大河ドラマは、真田幸村を主人公とした「真田丸」が放送されています。私の地元の長野県には、幸村の父・真田昌幸が建てた上田城があり、今回の大河ドラマと相まって盛り上がりを見せています。

「大河ドラマなんておじいちゃん、おばあちゃんが見るものだぜ!」というイメージがありましたが、若者(自称)の私が見ても面白いものとなっています。地元びいき? 何のことです?

ちなみに今回の写真は、上田城に現存している櫓と石垣を下から撮影してきたものです。上田城観光については『紅葉が見ごろな上田城におでかけ! 難攻不落の城で合格祈願も』で書いてます。

さて、そんな真田丸ですが、11/6(日)に放送された44話が話題を呼びました。ここでは、44話の何がすごかったのか、多分に主観を交えて解説をしてみたいと思います。

もう放送されたので、ガンガンにネタバレします。Yahoo!ニュースにもなっていたのでセーフですよ、セーフ。まだ見てない! 自分の目で見たい! という人は「戻る」ボタンをクリックするなりタップするなりして、DVDBDの発売をを待つんだ!

44話のあの演出のおさらい

という訳で今回注目したいのは、44話のオープニングの演出について。

いつもの流れであれば、オープニング、前回のあらすじ、本編、次回予告、ゆかりの地巡りという順番になっています。これが大河ドラマ「真田丸」の放送のパターン、「」ですね。

しかし11/6は違いました。時間になったらオープニングが始まるかと思いきや、いきなり前回のあらすじが流れたのです。

その時は「そろそろクライマックスだから、オープニング分の尺を使ったのかな?」なんてのんきに構えてました。じゃあ後半を楽しみにするか、と見ていたら段々と砦が出来てきて……。

そして砦の完成と共に内記が「城の名はなんとします?」と聞けば、「決まっているだろう、真田丸よ!」と幸村がタイトル回収。

その直後にオープニング曲が流れ、「真田丸」の題字が表示されました。幸村のセリフと題字をつなげていたのです。

決まった! 三谷氏のドヤ顔が目に浮かぶようですね。そして、オープニング内で今回のハイライトを流している部分で次回予告。いつもの型をうまく使いつつ、伝えるべき次回予告もちゃんと入れる、素晴らしい手法でした。

exciteニュースで、NHKの人に聞いてみた記事があるので、そちらもご参照ください。

44話のここがすごい!

この真田丸44話の素晴らしい点は、大きく分けて2つです。

いつもの「型」を破り、オープニング映像をエンディングに流した点と、第1話から準備していた伏線の回収を行った点です。

分けて分析するならこの2つですが、実はこの2つが組み合わさったことで、相乗効果を発揮しているのです。それぞれ詳しく見ていきたいと思います。

「型」を破った点

いつものパターンであれば、時間になったらオープニングが流れるはずのところで、急にあらすじが始まりました。これにより、視聴者の立場からすれば、「おや? いつもと違うな……何かあるかもしれない」と期待感が生まれます。

そして、この期待感から40分ほど経った後、いつもなら次回予告がある部分でオープニングが流れます。

人間の集中力は、大体30分程度と言われているので、最初の「おや?」から40分も経っていたらちょっと忘れかけているのです。そこにオープニングを持ってきたことで、最初の期待感に応えています。

オープニングをエンディング代わりに流すというのは、実は他のドラマやアニメではたまに使われる手法です。これも他の作品では数ある「」のひとつになっています。

ではなぜこれが効果を発揮したかと言えば、他でもない大河ドラマで導入したからなのです。

大河ドラマは、比較的「型」を守った構成をしています。長年同じ「型」で放送してきており、それを見ている視聴者にとっては、同じような「型」を見て取ると安心するためです。

守破離

物事の習熟段階を表す言葉に、守破離というものがあります。

は、師匠の教えを守っている状態、つまり「型」を守っている段階です。この「型」を理解して身に付けると、破のスタートラインに立ちます。

は、「型」を理解した上で、さらに良い考えを取り入れてそれを発展させる段階です。師匠の教えを受け継ぎつつ、自分なりの工夫もする段階です。

は、技術が十分高まったことで、ひとつの流派を離れて独自の流派を生み出す段階です。

今回はこの中の「破」が軸にありました。

「破」をリンクさせた

ドラマの構成としての「型」は、第1話から40回ほど続けて守ってきました。そして、他のドラマやアニメで使われる、盛り上げのための良い手法として、オープニングを後に回す方法を取り入れて、このドラマの表現を昇華させ「型」を破ったのです。

物語の中のもここにリンクしています。

真田家が物語の中心となっていますが、物語の中では長らく、真田と言えば幸村の父・昌幸のことを指していました。

関ケ原の戦いを経て九度山に幽閉された昌幸は、今一度戦いの中で己の知略を発揮することを夢見ながら没し、幸村がその遺志を継ぎます。

幸村は大坂城への入城後、父親から受け継いだ戦の考え方を守りながら、大阪城防衛のための戦略を考案します。内記との会話で、「父上ならこうする」とたびたび言っていたのは、昌幸の「型」を守っていることの表れです。

ですが幸村はそこに留まらず、苦労はありながらも大阪牢人五人衆を結束させ、秀頼の信頼の元に真田丸を築き上げました。

若い頃、豊臣秀吉の元にいたことで、多くの武将たちと触れ合うことにより、様々な駆け引きを学んでいたこともこの背景にあります。かつては北条の上洛を巡って、父・昌幸の代わりに、北条方の江雪斎と論戦を行ったこともありました。

つまり、父・昌幸の「型」を受け継ぎつつ、幸村は武力だけでなく駆け引きやまとめる力も身に付けた、という「」を示したのが、大阪牢人五人衆の結束、そして真田丸の築城だったのです。

今までのドラマ「真田丸」の構成における「破」と、物語の中における幸村の「破」をリンクさせたからこそ、この型破りは大きな効果をもたらしたのです。

大きな伏線の回収

そしてもうひとつの素晴らしい点として、大きな伏線の回収があります。毎回の放送で丁寧に伏線を貼りながら、なかなか意識できない、素晴らしい伏線でした。

どれかって? いやいや、もうお気づきのはずです。

そう、ドラマタイトルの「真田丸」のことです。ドラマタイトルとしての「真田丸」は、戦国最後の最強の砦「真田丸」から名付けたものです。

つまり、発表した段階で既にネタバレをしていたようなものです。(史実にネタバレも何もないけど)

なぜうまく働いたか

ではこれがなぜ伏線として働いたかと言えば、タイトルへの意識を逸らすのが上手かったからです。

この伏線を回収するまでにかかった話数は実に44話。普通のドラマだったら4クール分です。全43話のファーストガンダムだったらもう話が終わってます。

それまでの間、オープニングで「真田丸」の題字は出てきても、物語の中では「真田丸」なんて一言も出てこない訳です。

そうすると、だんだんと「真田丸はドラマタイトルのこと」という意識が刷り込まれてきます。「あ、今日は真田丸の日だ!」なんて考えていたら、ドラマタイトルそのものに意識が向いている訳ですね。

物語の緩急によっても意識を逸らした

また、物語の中の緩急の付け方もうまく、そちらに意識が向くようにもなっていました。

超高速関ヶ原ナレ死といった言葉に代表されるように、我々にとっての大きなイベント、大人物の最期が、真田視点で描かれるとこうなる! というのをうまく表現したことにより、そちらに注目するようになるのです。

また、きりとの掛け合いや、兄・信之のコミカルな描写など、息を抜ける場面も数多く用意されていました。

そうした仕掛けを準備し、組み合わせてあったからこそ、物語の中で、戦国最後にして最強の砦の築城に至ったときに、あのやりとりが効いてくるのです。

「城の名はなんとします?」

「決まっているだろう、真田丸よ!

大きな伏線の回収

「型」を破ること、伏線を回収すること、この2つが組み合わさって大きな効果をもたらしましたが、組み合わせ方も見事でした。最初にあるべきオープニングが無かったことで、「何か来る……!」と思う訳です。

40話以上の放送で毎回のように表示されていた「真田丸」の文字が出てこないことで、タイトルに何かあるぞ、と考え始めます。

そして44話のサブタイトルは「築城」、視聴者はもうこの時点で期待感に包まれています。物語は進み、秀頼への忠義、大阪牢人五人衆の結束を経て、ついに砦が完成します。

内記が「城の名はなんとします?」と聞いた時には視聴者の頭の中で、「なぜ今回オープニングが無かったか」「なぜこのドラマが『真田丸』というタイトルなのか」が一気につながります

そうすると、もはや次に来る言葉は自明でしょう。40回以上もインプットされてきたのですから。

そして、その期待に応えるように、「決まっているだろう、真田丸よ!」と来てストリングスの音と共に「真田丸」の題字。

視聴者の頭の中は大興奮に見舞われる訳です。

両方のリンク

上で述べた「破」のリンク、そしてドラマタイトルと物語の中のキーポイントである「真田丸」のリンク、この2つが存在することにより、視聴者と物語との結びつきがより強くなります。

ドラマの構造によって、視聴者が真田幸村にリンクするのです。そしてリンクしたまま次回予告に入れば、次回のサブタイトルは「完封」。

ここも視聴者をくすぐるのが上手かったですね。今回築いた砦で完封勝利。気持ちが舞い上がってしまうのはもう止められません。

ドラマの構造で真田を表現した

この組み合わせによって、大きな盛り上がりを見せましたが、もうひとつ表現の上で素晴らしい点があります。

それは、ドラマの構造によって真田の生き方を表現したことです。

今回焦点が当たっている真田幸村、父・昌幸、兄・信之は、戦国の世を生き残るために様々な知略を巡らせました。脱出のためのからくり装置を準備していた真田屋敷を始め、戦いのための準備、戦略など、彼らは常に頭を使って策を考えていました。

この44話では、今まで準備してきた仕掛け(伏線)と、今まで隠してきた奇策(オープニングずらし)を駆使して大きな「戦果」を挙げており、これがまさに、知略で徳川を2度も撃退した真田の生き方を象徴しているのです。

まとめ

真田丸をテーマに、「型」を破ること、そして準備された伏線回収による効果を考えてみました。どちらも「ここぞ!」という所までの準備が秀逸ですし、決めるタイミングが見事でしたね。

地元の名前が出てくることで、何となく見始めた真田丸でしたが、気づけば毎週楽しみにしている自分がいました。

あのカッコよさを思い出し、ダバダバ泣きながらこれを書いていましたが、このような素敵な物語を作れるような人になりたいものです。