いだてん12話感想「太陽がいっぱい」マラソンは自分との戦い

2020年2月15日

自分との戦い

とどでございもす。

ついにストックホルムオリンピックでマラソンの日がやってきました。連日の白夜と茹だるような暑さでコンディションは最悪、その上マラソンで走る前に監督をおぶってスタジアム入りするというアクシデントもありながらの出走でした。

意識が朦朧としながらもなんとか走る金栗四三。練習中に仲良くなったラザロとのデッドヒートを経て、トップを目指し……といったところでコースを外れて失踪してしまいました。

散々テレビでやってたので結果は知っていたものの、スタジアムで応援していた嘉納治五郎先生達にとってみれば、失踪はビビりますね。見つかったのが次の日ですから、それまで必死で探し回っていたことを考えると……彼らにとっても大変な一日でした。

今回のサブタイトル

今回のサブタイトルは「太陽がいっぱい」で、元ネタは1955年にアメリカで出版されたパトリシア・ハイスミスのサスペンス小説です。「太陽がいっぱい」は日本版のタイトルで、原題は「The Talented Mr.Ripley」。意訳しまくってます。

この小説を原作としてアラン・ドロンが主演を務めた映画もあります。日本だと1960年公開なので東京オリンピック前にやってた感じです。もしかしたら阿部サダヲさん達が演じている東京オリンピック招致パートの頃にはドンピシャで上映中だったかも。

今回のお話ではマラソンの競技が行われたのがとても暑い日だったこともあり、太陽に関する作品だったようです。

スウェーデンは北欧なので夏でも割と涼しいイメージがあります。ストックホルムオリンピックでマラソンが行われたのが7月14日なので、試しに気象庁のサイトで2018年7月のデータを見ると平均気温が22.5度、月平均最高気温が28.5度となっていました。

参考として日本の2018年7月のデータを見ると平均気温が28.3度、月平均最高気温が32.7度。去年の夏は超クッソ激烈に暑かったのが思い出されますね。比較するとスウェーデンって過ごしやすそう。

……なのですが、ストックホルムオリンピックのマラソンの競技日は陽の当たるところだと40度を超える酷暑だったそうな。まさに太陽がいっぱい。

あと金栗四三がマラソンの途中に見た幻覚で日本の人々が国旗を振っていましたが、あれも太陽と捉えれば太陽がいっぱいでした。

猛暑、白夜、おんぶ

マラソン当日にこれだけの悪いコンディションが重なることもそうそうありません。

スウェーデンでは5月から7月あたりは白夜になるそうで、ストックホルムオリンピックが行われた7月初頭から中旬あたりもこの期間にかかってますね。

社会の授業で白夜について知りましたが、実際にその環境にいることを脳内シミュレーションしてみると、すんごいしんどい感じがします。

多分初日とかは「夜が来ない! わっほい!」みたいな感じではしゃぐと思いますが、2、3日したら体内時計が狂ってダウンしそう。旅行のガイドブックなんかを読むと現地の人でも睡眠不足になったりするそうですね。しかも夏至の日には一晩中飲んで食って踊り明かすとか。寝なすぎてテンション上がってる時のアレですね。

でもってマラソンの当日は猛暑で気温が32度とかで、地面の照り返しを受けると日の当たる場所では40度を超える暑さになります。しんどすぎ。

しかも金栗四三は大森監督の「外に出る時は必ず正装で」という言いつけを守っていたため、こんな暑い日にきっちりとした格好で大森監督をおんぶしてスタジアムまで歩いて行ったみたい。縛りプレイかな?

幼い日にできなかったこと

今回は金栗少年が久々に出てきました。父親と一緒に嘉納治五郎先生に会いに行く道中、体の弱い父親が途中途中で休んでいたのを思い出したみたいです。

当時は自分の体も小さかったから父親に無理させてしまっていたけれど、成長した今なら無理に歩かせずに大森監督を背負うことができる、なんて感じでおんぶしてスタジアムまで歩いて行きました。

体が弱っている中でも「I have to go」と言っていた大森監督の想いまで一緒に背負っている感じがいいですね。大森監督の方も、監督として考えるなら選手に負担をかけるべきではないと分かっているけれど、金栗四三の心意気を買って黙っておぶさる感じがまたよかです。

ハンデとか言ってすみませんでした。

綾瀬はるかさん+オリンピック=

コカコーラが思い浮かびます。平昌オリンピックで流れてたからでしょうか。

鯛で勝利祈願をしてましたが、コカコーラが置いてあっても違和感がないかも。嘘です。

彼女が演じるスヤさんは玉名の庄屋である池部さんと結婚しましたが、池部さんも金栗家に来て一緒に応援してくれるとか、心が広いですね。

ラザロとのシーン

ストックホルムに着いてから仲良くなった金栗四三とラザロ。金栗四三が控え室に滑り込んできたときも会話がありました。プレッシャーを感じているからか、靴紐が解けているラザロでしたが、金栗四三に話しかけられて多少落ち着いた感じがありましたね。

大工のラザロは、日本の大工が履く足袋に興味を持ち、その足袋を通して二人が仲良くなりました。通勤時に走って仕事場に向かうラザロと、学校に走って向かっている金栗四三は共通点があり、そういう点でも通じ合うものがあったんですね。作中で触れていませんが、ラザロと金栗四三は同じ1891年生まれ。ここでも共通点があったみたいです。

ストックホルムにおける戦友とも言えるラザロですが、レースの途中には金栗四三とデットヒートを繰り広げました。ライバルでありながら、金栗四三がコースを外れ行く時には「No! No!!」と声をかけてくれたいい人でした。

ドラマ仕立てのマラソン

走っている最中には金栗少年が「スッスッハッハッと2回吸って2回吐くんだよ」なんて、幼い日に得た教訓を伝えてくれました。

意識が朦朧としている金栗四三の目には、日本で応援してくれている人の姿や、故郷のみんなの姿が見えていたみたい。

私はハーフマラソンしか走ったことがないのでフルマラソンの辛さは未体験なのですが、走っていると「もうやめちゃえよ」とか「十分頑張ったよ」なんていう内面からの自分の声が聞こえたりします。

フルマラソンともなれば、なかなか先が見えないのですから、その辛さは何倍にもなることでしょう。当時の記録で2時間30分以上走りっぱなしですもんね。考えただけで横腹が痛くなってきます。

今回はその表現がドラマ仕立てになっていました。金栗少年やら友人たちの幼い日の姿が出てきましたが、それだけで泣きそうになるからやめてください。

また、日本で応援している人々の姿を映し出すシーンでは、現代のオリンピック観戦を彷彿とさせます。今だったらタイムリーに選手の活躍を知ることができますが、当時は「2、3日後の新聞に載る」くらいの時間感覚ですもんね。ほんとは同時に想いを届けることはできないけど、場面を切り替えて現代風の観戦スタイルっぽく見せていたのも個人的に共感ポイントでした。

そして最後に金栗少年が「もう止める?」と尋ねてきて、違う道の方に先導していくあたりも良かでした。あの道、練習の時に何度も間違えていたところですもんね。念入りに伏線を張っていたおかげでドラマチックさが倍増です。こういうのでいいんだよ、こういうので。

そして失踪へ……

テレビの特集とかで「オリンピックのマラソンの途中、金栗四三は失踪した」と聞くだけだと知識として知っているだけで実感が湧かない感じがしますが、今回のように「多分こうだったんじゃないか劇場」仕立てだとまた違った印象が生まれます。

失踪した後、みんなで必死こいて探している姿もハラハラしちゃいました。私たちは知識として「次の日に見つかる」と思っていても、当人たちにしてみればえらいこっちゃですもの。

失踪した本人は倒れた記憶すらなく、「すみません、すみません」と謝ることしかできないのも辛いですね。世界記録を出して、多くの人に支えられてここまで来たのに、気がついたら自分のベッドに寝ていた……なんてのはパニックになりそう。

次回で失踪時の様子が分かるのかな。

まとめ

志ん生パートもちょいちょい入ってましたが、金栗四三パートで泣きそうになったタイミングで入ることが多く、何とか泣かずに済みました。

来週はマラソンのリザルトですね。あと予告で大森監督に死亡フラグが立っていたんですがそれは……。

次回のサブタイトルは「復活」。トルストイの小説が元ネタだと思います。日本で翻訳されたのは1905年、内田魯庵(うちだろあん)が訳したのが最初のようです。内田魯庵版は、彼が江戸生まれだからか、地の文もセリフも江戸っ子っぽいのが特徴です。ロシアの名前の登場人物(女性)が「あいよ! どの道こうしてるよりましサ!」と江戸っ子口調で喋るギャップを楽しめます。